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「双眼鏡を覗いてみたら」~藤原義江記念館~(シリーズ⑥)
投稿:2013.12.27
関門橋の下を行きかう船を眺めていた時、なぜか下関側の橋脚の手前に広がるこんもりした小高い山が気になった。この紅石山は常緑樹に覆われているが、その木々の中に一つ、白い3階建ての鉄筋コンクリートの建物が建っている。
この建物は1931年に、シドニー・リンガーが息子のために建てたもので、この前面に建てられていた木造の洋館(今は取り壊されて無くなっている)とともに、外国系商社の嚆(こう)矢(し)となった瓜生商会の支配人の宿舎として使われていた。国の登録有形文化財となっている。
実は、「われらのテナー」と呼ばれた世界的なオペラ歌手藤原義江は、1898年(明治31年)この瓜生商会の支配人として下関で過ごしたスコットランド人のネール・プロディ・リードと琵琶芸者の坂田キクとの間に生まれた。
このことから現在この建物は、藤原義江に関する資料が展示される記念館として活用されるとともに、市民の手で熱心に彼の顕彰活動が続けられている。今回、下関市在住の直木賞作家古川薫氏の藤原義江の生涯を描いた受賞作「漂泊者のアリア」を読み直してみた。
師走の冷たい風の吹く日、もう一度タワー展望室から眺めて見ると、関門橋の下で白波の立つその風に紛れて、藤原義江記念館で聴いた義江の若かりし時の歌声と小説に出る義江の波乱万丈の人生の1コマ1コマが折り重なって吹き抜けて行ったような錯覚に落ちいった。
(藤原義江記念館)
(藤原義江)